ある休日の昼の救急外来でのことです。
パパとママと1歳半くらい男の子の親子が救急外来にやってきて、小児科を受診しました。
風邪をひいて鼻水と咳が出ていて、38℃くらいの熱が前日から続いているとの事でした。
診察の時にママが
「食欲はないけれどアイスやゼリーなど喉ごしのいい食べ物は食べれている、水分は少しずつとれている。だけど、元気がない。いつもだったら熱があってももう少し元気に過ごせている。」
と話していました。
診察に立ち会った私から観ると、その子どもは医師の声かけに反応してバイバイができていたし、『熱が出ている子どもってこんなくらいじゃない?』と思えるくらいの様子でした。
医師もそれほど重症とは考えていない様で、『念の為の血液検査と脱水予防のための点滴をして帰宅しましょう』という方針となりました。
血液検査の為に採血をして、子どもさんには血液検査の結果がでて点滴が終わるまでベッドで寝てもらっていました。
ママだけが気づいていたちょっとした違い
私は点滴確認の為にその親子のベッドを訪れると、ママが
「入院はさせてもらえないんでしょうか?」
と質問してこられました。
その時には血液検査の結果も出て、入院が必要となる様な数値ではありませんでしたし、親子には医師から
「次の日にいつものかかりつけの病院に行って診てもらってね」
と伝えられていました。しかしママからは
「今日はいつもと違う感じがするから、念のため入院させてもらいたい」
という強い要望がありました。私が医師にママが入院を強く希望していると相談すると、一泊だけなら入院してもOKという返事でした。
真夜中・急変
親子はそのまま念のために入院という事になり、病棟で一泊入院することになりました。
ここからは後に知らされた内容ですが、その日の真夜中にその男の子の熱が上がり、咳がひどくなったそうです。
咳は仮性クループという状態になり呼吸が苦しそうだったとのこと。
仮性クループは咳をする様子がオットセイが鳴く様な音がしたり、犬が遠吠えするようなケンケンと鳴くような咳がでます。または気管が腫れて狭くなっているので、咳のすぐ後にヒューッと高い音が鳴る時もあります。
仮性クループは咳がひどい為に呼吸がうまくできず呼吸困難になります。
風邪などをひいた2歳くらいまでの子どもに起こる事が多く、症状がでるタイミングは主に深夜です。症状が急激に進む場合もあり、症状がひどくなれば喉の奥が腫れて気管を圧迫し呼吸自体ができなくなってしまいます。
緊急で喉の皮膚を切って、気管切開をしなければならない場合もあります。
自宅でこの症状が出た場合は、すぐに夜間救急の小児科に行ってもらうか、呼吸が苦しそうなら救急車を呼んでもらう事になります。
この男の子の場合、仮性クループになったのが病院内であったこともあり、早急にステロイド吸入の処置を受けることができました。
入院期間はのびましたが、喉もそれ以上腫れる事もなく、呼吸困難になることもなかったそうです。
こんな話をきくと、ママには何か不思議な勘が働くのかなと思います。
ですから、ママには「何かおかしい」と思う事があれば、その言葉を飲み込まずに必ず伝えてもらいたいといつも考えています。
医師は治療の専門家ですが、我が子の専門家ではありません。
子供の体調が良い時、悪い時など全てを理解しているママだからこそ、医師にも見抜けない普段との微妙な違いを感じる事ができるのです。
ママは子供の命を守る最後の砦。
救急外来で務めている自分自身の経験を振り返ってみても、ママの勘が警鐘を鳴らしている時は、ほとんど当たっているといっても過言ではないのです。。