揺さぶられっ子症候群は、普通に育児をしているだけでは起こりえないものといわれています。
しかし実際にあった揺さぶられっ子症候群の事例の中には、虐待を受けていた赤ちゃんの事例のほかに、高い高いをしたり、ゲップをさせる時に激しく背中を叩いたなどの行為が原因となっている事例もあります。
このサイトでも揺さぶられっ子症候群についてはたびたび触れ、普通に抱っこして揺らすなら大丈夫だとお伝えしてきました。
しかし、パパやママはどんなに「大丈夫」と言われても、心配をゼロにすることはできませんよね。
そこで今回は、揺さぶられっ子症候群が起こる原因と、実際の事例についてもう少し詳しく見ていきましょう。
赤ちゃんの頭の中には隙間がある?
人間の脳は頭蓋骨に覆われていますが、脳と頭蓋骨は密着しているわけではなく、隙間があります。
赤ちゃんは、この隙間が大人よりも大きいのが特徴。
赤ちゃんは出産時に狭い産道を通れるよう、頭蓋骨を重なり合わせて変形させるため、生後間もなくは産道を通った影響で頭蓋骨と脳との間の隙間がやや狭くなっています。
危険な数ヶ月
ところが、生後2ヶ月頃から再びこの隙間が広がり始めます。
1歳頃までに赤ちゃんの脳は急激に成長して大きくなるため、あらかじめ頭蓋骨の隙間に余裕を持たせているのです。
この隙間は、脳の急激な成長が落ち着く1歳半頃までにはなくなるといわれています。
頭の中には何がある?
隙間といってもそこに何もないわけではなく、実際は髄液などの体液で満たされ、血管が通っています。
どういうことなのかピンとこない人は、水を張った容器に豆腐を浮かべている状態を想像するとわかりやすいかもしれません。
脳の硬さは豆腐とだいたい同じくらいですから、衝撃が加わるとどのようになるかも想像しやすいでしょう。
激しく揺さぶられると、赤ちゃんの脳に何が起こる?
揺さぶられっ子症候群は、赤ちゃんを体ごと激しく揺さぶった時に起こります。
新生児期の赤ちゃんは首がすわっていないため、頭の重さを支えることができませんし、首がすわっていても、赤ちゃんの頭は大きくて重いため、激しい動きには耐えられません。
赤ちゃんの頭蓋骨の中は滑りやすく、血管も弱く切れやすい状態です。
激しく揺さぶられて頭が動くことで、赤ちゃんの脳は頭蓋骨の中で揺れ動き、血管や脳そのものが引きちぎられて出血を起こしてしまうのです。
脳に病気を持つ子はなりやすい
揺さぶられっ子症候群はどの赤ちゃんでも起こり得るものですが、赤ちゃんに硬膜下水腫や脳萎縮などの病気がある場合には、通常よりも頭蓋骨と脳の隙間が大きく、脳が動きやすため、特に揺さぶられっ子症候群を起こしやすいといわれています。
揺さぶられっ子症候群になったときの症状
頭蓋骨の中で出血を起こした赤ちゃんには、
- それまで泣いていたのにピタリと泣き止む
- 10分以上も激しく泣き続ける
- 目の焦点が合わなくなる
- 痙攣を起こす
- 吐き戻す
- 意識がなくなり、ぐったりする
- 授乳はできるが元気がない
といった症状が出てきます。このような場合は、ただちに病院で診察を受けることが必要です。出血量が多い時には、血液が脳を圧迫して脳圧が急激に上がり、最悪の事態になることも。
また、場合によっては脳の神経を損傷することで、重大な障害を赤ちゃんに残してしまいます。
揺さぶられっ子症候群になったために、寝たきりで目もハッキリ見えなくなり、重症心身障害児施設で暮らしているという子供も、実際にいるのです。
大切なのは赤ちゃんを乱暴に扱わないこと
揺さぶられっ子症候群になっても、手術するようなケースはあまりありません。
逆にいえば、揺さぶられっ子症候群を起こして一度脳の神経が損傷してしまうと治療することが難しいため、揺さぶられっ子症候群にならないように注意することが一番重要なのです。
揺さぶってから数ヶ月して異変に気がつくことも…
しかし、赤ちゃんを揺さぶってからすぐに症状があらわれるとは限りません。
揺さぶられっ子症候群の中には、発症当初は全く気が付かなかったのに、1~2ヶ月たってから、首がなかなかすわらない、手足の動きが少ないといったことで異変に気づくケースもあります。
頭の中の怪我は後遺症の原因に
頭蓋骨の中で出血すると、血液はなかなか消えないため、脳の圧迫が長く続いてしまいます。
揺さぶられっ子症候群では、少量の出血によって脳が圧迫され続けることで症状があらわれることもあります。
ですから、もしも赤ちゃんを揺さぶってしまった場合には、すぐに病院へ行くことが大切。
自己判断で大丈夫だと思って、あるいは虐待だと思われるのが怖くてそのままにしておくと、その時は赤ちゃんに異変がなくても、数ヶ月後に思いがけないような結果になってしまうことがあるのです。
実際に起きた揺さぶられっ子症候群の事例
では、どのような時に揺さぶられっ子症候群が発症しているのでしょう。実際に起きた事件・事故から事例をいくつか挙げてみます。
虐待
まずは、虐待による揺さぶられっ子症候群の事例です。
- 泣き止まない子供にカッとなり、赤ちゃんの頭を持って2秒間に5~6回激しく揺らした
- 首がすわっていない赤ちゃんを泣き止ませようと、赤ちゃんの体全体を激しく揺らした
この2つの例では、残念ながら赤ちゃんの命は失われてしまいました。
乱暴にあやす
次に、乱暴にあやしてしまったことで揺さぶられっ子症候群が発症した事例です。
- あやすつもりで、赤ちゃんの体を20分間ブンブンと左右に揺らし続けた
- 赤ちゃんを空中に投げてキャッチする高い高いをした
- ゲップをさせる時、赤ちゃんの背中を鼻血がでるほどの勢いでどんどんと激しく叩いた
このうち、上の20分間体を揺らした事例では、赤ちゃんに障害があらわれたものの、数年後には治癒しています。
下2つの事例は赤ちゃんに異常は見られず、完治したとのことです。
これらはもちろん、虐待するつもりでしたものではなく、あくまでも赤ちゃんをあやそうとしてのこと。
しかし、ここにあげた事例で加害者となったのは、すべて父親であるということに注目しなければなりません。
育児に慣れていないパパがやってしまいがちな乱暴なあやし方
なぜ父親が揺さぶられっ子症候群の加害者になってしまったのか。
それはひとえに、男性であるパパの方がママよりも力が強い反面、育児や赤ちゃんに慣れていないことが原因であると考えられます。
ママと不慣れなパパの違い
ママは初めての赤ちゃんでも、本能的にどう扱えばいいかということを知っているため、加減ができます。
しかしパパの場合は、赤ちゃんをどう抱っこすればいいか、どうあやせばいいかということがわからず、無意識のうちに乱暴に扱ってしまいがち。
新生児期は、首がすわっていないということが具体的にどういうことかわからず、きちんと頭を支えられないこともあります。
不慣れなパパに注意
赤ちゃんをあやすつもりで抱っこしてグルグル回したり高い高いをしただけでも、扱いが乱暴なばかりに赤ちゃんの頭が想像以上に揺れてしまうことも。
大人が見るとたいしたことがなさそうな動きでも、頭が重くバランスが取りにくい赤ちゃんにとっては、頭の揺れは強くあらわれ、またぐるぐると回転することによって速度が加わると血管が切れやすくなります。
パパが赤ちゃんをあやす時には、
- ゲップをさせる時は赤ちゃんの頭と首をしっかり固定し、優しく背中をなでるようにする
- 高い高いでは絶対に空中に赤ちゃんを投げない
- 長い時間(10分以上)揺らさない
- 赤ちゃんを抱っこしたまま速いスピードで回転しない
- 赤ちゃんを抱っこしたまま走らない
- 赤ちゃんを上下に揺らさない
といったことを注意しましょう。
あやす時には、基本的に赤ちゃんの頭とお尻の両方を支えていると安心です。
また、赤ちゃんとずっと一緒にいるママと違い、パパは赤ちゃんの泣き声に耐性がありません。
ママではなく、パパが泣き止まない赤ちゃんにカッとなってつい乱暴に揺さぶってしまった、というケースは意外に多くあるのです。
赤ちゃんはデリケート!新生児のうちからパパも積極的に育児しましょう
このように、赤ちゃんに不慣れで扱いがわからないパパの場合、あやそうと思ってやったことでも、赤ちゃんに揺さぶられっ子症候群を起こしてしまうケースもあります。
こうしたケースを防ぐには、まず、パパ自身が揺さぶられっ子症候群の知識をつけることが大切。
揺さぶられっ子症候群がどういう時に、どうして起きるのかを理解することで、赤ちゃんに対する扱いに注意できるようになります。
事故を起こさないためにパパがすべきこと
そして、新生児の時期からママと一緒に育児をして、赤ちゃんの扱いを覚えること。
新生児は小さくてフニャフニャで怖い…と、抱っこやオムツ替えをしたがらないパパもいますが、こうした場合、首や腰がすわって赤ちゃんがしっかりしてくると、それまでの扱い方がわからなかったためか、とたんに乱暴に抱っこしてしまうことがあります。
赤ちゃんはデリケートなものということをしっかり覚えるためには、新生児期の育児こそ重要なのです。
また、赤ちゃんと一緒に過ごす時間が長くなると、赤ちゃんは泣くものだということをパパも身をもって知ることができます。
泣き声でカッとするということを減らすためにも、パパ自身が積極的に赤ちゃんと係る姿勢が大切です。
完全に不慣れなパパには赤ちゃんを任せない
パパが積極的に育児に関わってこなかった家庭の場合は、より注意が必要です。
生後半年くらいが過ぎて赤ちゃんの体がしっかりとしてくると、パパにも赤ちゃんのお世話をお願いすることが増えてきます。
しかし、パパが赤ちゃんに慣れていないと、つい乱暴に扱ってママの見ていない間に揺さぶられっ子症候群を起こしてしまう危険も考えられます。
こうした不安があるママは、パパが一人で赤ちゃんの面倒を見るという状況をなるべく避けるのもひとつの方法ですね。
ママのストレス解消も大切
パパだけではなく、ママももちろん赤ちゃんを乱暴にあやしたり、泣きやませようと強く揺らすといったことは絶対に避けなければなりません。
パパと違って、赤ちゃんと24時間ずっと一緒にいるママの場合は、育児の密室化によってストレスが溜まりやすく、イライラが爆発して赤ちゃんを激しく揺さぶってしまうという行動につながることが多くあります。
日頃からストレスを上手に解消し、気持ちに余裕を持つことが大切です。
どうしてもイライラして我慢ができないと思ったら、泣いている赤ちゃんの安全を確認して、いったん赤ちゃんから離れることも、赤ちゃんとママ自身を守るために必要な方法だということを覚えておきましょう。
まずは、パパもママも揺さぶられっ子症候群についての知識をしっかりつ持つこと、そしてパパとママがお互いに協力し合い、おおらかな気持ちで子育てに取り組むことが、揺さぶられっ子症候群を予防する一番の方法だといえそうです。
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※参考資料
揺さぶられっ子症候群と子どもの事故―小児救急外来の現場から (子育てと健康シリーズ)
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