「あなたの子供は発達障害です」こんなことを医師でもない人に言われたら、あなたはどうしますか?
保育士に「発達障害児」と言われ、小児科医に「大丈夫」と笑われ、自分は「遅れている?」と思い、専門医は近くにいない。
そんな時、親にできること。親がすべきことってなんでしょう? 私の経験から考えてみました。
「発達障害」と保育士に言われ、途方に暮れた
娘が2歳の時、私は保育園の園長先生に「あなたの娘は発達障害児です」と断言されました。
かかり付けの小児科医は「大丈夫」というし、保健師は「お母さんが話しかけてあげてください」というし、発達支援センターは「お母さんがしたいようにしてください」という。
専門医は近くにいない。発達障害児のケアをしてくれる施設は、新規の募集は未定。私は仕事をしているし第二子妊娠中だし、夫は単身赴任中です。
どうしろと?! どうすればいいの?
本当に途方に暮れました。真っ暗なトンネルの中に取り残された、というより、グランドキャニオンのど真ん中に、娘と一緒に何も持たずに瞬間移動した気分です。
通常社会からはじき出され「生きていけるなら、生きればいいんじゃない? なにができるかって? そんなの知らないよ。まぁ、なんか言いたいことがあるなら言えば?」と鼻で笑われたようにさえ感じました。
どうすればいいか解らない。障害という事実を、そのまま素直に受け入れられない。でも、育てていかないといけないし、可愛いわが子です。
途方に暮れる。まさにその言葉の通りでした。
必殺!結論先送りの術
途方に暮れましたが、そのままでは何も進みません。そもそも専門医は身近にいなくて、診断を受けることができません。私は明日も仕事があるし、お腹の中で第二子が着々と成長しています。
娘の発達障害かどうか診断を受けることは難しいし、時間的にも難しい。それなら、とりあえず「発達障害かどうか」この診断はしない。先送りにする。私はそう決めました。
「発達障害かもしれないし、ただ遅れているだけかもしれない。白黒つけない」
専門医に出会えるきっかけができるまで。第二子のことが落ち着くまで。そして必要に迫られるまで、私は結論を先送りにすることにしました。
まず、保育園に通わなければ私が仕事できないので、園長先生には「問題無い」と笑った小児科医の判断を伝えました。
「発達について相談ができると市のパンフレットに載っていた医師2人は、問題無い、とのことでした」
自治体の名前と、医師の名前を出すことで「親は対策を考えている」という姿勢を示し、「親の感情論で反論している訳ではない」と園長を納得させました。
私のこの言葉に園長先生は「よかったですね」とだけ言いました。結局、この3か月後に退園を要求されたので、園長先生は私の娘をずっと「発達障害児」として扱い、いつ退園させるか機会を窺っていたようです。
365日、1か月あたり何時間でも預けることができる保育園だったので、物凄く人気が高く「園が園児を選択できる状況」だったんです。完全に保育園の方が立場が上で、はっきりと「障害児お断り」を突き付けられたんです。
担任で主任だった保育士も、私の娘には「言っても意味ない」と何も話しかけずに手首を掴んで引き摺り回すだけだった。こうした園の対応を私は退園間近になって知りました。
一度レッテルを貼られるとそれは二度と剥がされることはなく、邪魔者扱いされる辛さを後から痛感した。そしてなにより、娘の心に深い傷を負わせてしまったことが悔やまれます。
娘は2歳でした。小学生になった今でも、あの当時の担任に雰囲気が似た女性が苦手です。とっさに逃げ、その顔をじっと見詰めて様子を窺います。本当に可哀相なことをしてしまいました。
私はどうしたいのか? 親の意見を考えた
娘が発達障害かどうか。専門医による明確な診断を受けることを私は先送りしました。2歳の時点では時間ばかり掛かって得るものが少ない、と感じたからです。
そもそも、仕事をしていて、夫が単身赴任中で、第二子妊娠中の私が、どうやって県外の、何か月も初診を待たなければならない専門医の所へ行くのでしょう?
では、何もせずにいるのか。私はどうしたいのか。親としての希望や願望を考えてみました。
- 可能なら、普通の学校に通わせ、大学まで卒業させたい
- 社会人として一人で生きていく、自立した女性に育てたい
前者は親の見栄だったり、エゴが含まれているだろう! と言われるかもしれません。でも、後者はどうでしょう? 障害があろうが、なかろうが、一人前に育てたいというのは親として当然ではないでしょうか?
前者はナシとしても、後者は「社会で生きていける人間にすること」です。望むのは当然でしょう。
2歳にしてその社会から娘ははじき出されました。では、どうしてはじき出されたのか。なにが原因だったのか。
「みんなと同じことができない」
園長先生は再三、この言葉を繰り返しました。裏返せば、発達障害があろうが、なかろうが「その場にいる他の人と同じように行動できるなら、集団に受け入れてもらえる可能性がある」ということです。
なので、親としては「なにができないのか」把握し、「それができるよう、力を底上げしていく」必要がある。こう私は考えました。
こうなれば「いつ、なにが、どのレベルまでできればいいのか把握すること」と「できないことをどう教え、どうフォローしていくか」が重要です。
この2つのことに辿り着いた時、私は光が見えた気がしました。私は「発達障害」を調べるのではなく「親にできること」を調べることにしました。
親にできることはないのか?
小学校などで「学習指導要領」を元に教育が行われているように、幼児でも「こうしたことが、このレベルまでできるもの」という基準があるはずです。乳幼児健診では、その基準を元に成長度合いをチェックしていますからね。
この基準がどんなものなのか。これが解れば「娘ができるかどうか」チェックできますよね。実は、こうした「できないことを把握し、できるように手助けしていく」ということが「療育」なんですね。
いろんな所で「専門家の指導を受けるといい」「発達支援センターに行くといい」というのは、この「療育」を受けよう、ということなんです。
では、この「療育」は専門家でないとできないのだろうか? でも、現状では、専門家の診断などを受けること自体が難しい。では、療育は諦めないといけないのか?
子供の傍には親がいる。この親が日々の生活の中で「療育」をできるといいなぁ。
それを調べていて辿り着いたのがABA(応用行動分析学)というものでした。ABAを親が知り、それに基づいた療育の方法というものを、日々の生活の中に取り込んで親が傍で子供をフォローしていけば「できないこと」が減っていくのではないか。
できないことが減れば、もしかしたら集団の中でやっていけるかもしれない。私はそう考えました。
ABAに基づく家庭療育というもの
ABA(応用行動分析学)というと、小難しい専門用語が並ぶ学問で、えらい先生が厳格なルールの元で行う訓練のようなイメージがあるかもしれません。
また
- 自閉症の人専用のプログラム
- 重度の発達障害児に行うもの
- 療育を受けているということは、発達障害であるとアピールすること
こんなイメージがあるかもしれません。
ですが「ABA(応用行動分析学)」というのは、人の心理や考え方、行動など、人間の活動全てを包括して研究する学問です。
この学問を応用すれば、人と人とのコミュニケーション能力がアップしたり、効率のよい勉強方法を知ることができます。
「言葉で説明されるより、図で示された方がひと目で把握できる情報が多く、情報が適切に伝わりやすい(百聞は一見にしかず)」
これはまさにABAを活かした技です。誰かの上に立つ立場の人や、誰かに何かを教える人はABAというものを知っておくべき、といっていいと思います。
「他の人に興味を示しにくく、コミュニケーションが難しいとされる自閉症の人であっても、ABAに基づいた方法で対応すれば意思疎通ができる」こういうことから「ABAは自閉症の人の療育法」という形で知られるようになってきました。
つまり、ABAというものを知れば、親が自宅で療育できるんじゃない? これが娘の「できない」を減らしていくことに繋がるのでは? そう思ったんですよね。
嬉しいことに家庭でできるABAに基づいた療育の具体的な方法というのは書籍で紹介されています。
遠方の専門医の診察を受けることにお金と時間を消耗するなら、通販で本を買って自宅で療育する方がずっと有意義ではないか?
これなら誰にも「療育している」とバレずに、集団の中での行動を状況改善できるのでは? そう思いました。
凄いぞ!ABAに基づく療育の威力!
私は1冊の本を購入し、斜め読みして自宅で実践してみました。
ABAや療育については、私はド素人です。娘も療育なんて受けたことがありません。そもそも、本の内容を私が100%理解できた訳ではありませんし、全てが娘に合う内容でもありませんでした。
ですから「効果があったらラッキー」そんな軽い気持ちで始めました。
初めての家庭療育は自宅で3分、椅子に座ることだけでした。ものの5分くらいで療育の時間は終わり。あっけないくらい短い療育時間でしたよ。
翌日、娘を保育園に預けて仕事をし、夕方、娘を迎えに行った時です。娘のことを「発達障害児です」と断言した園長先生が私の元へ走ってきて「お母さん! なにしたんですか!」と血相を変えて言いました。
「前日までと全く違って他の子と同じ行動を取りました! 発達障害児なのに!」園長先生は信じられない、といった様子でした。この園長先生の反応に私は驚きました。それと同時に、ABAに基づく療育というのが娘に合っていると感じました。
「椅子に座る」
ただ、それだけのことを1回、自宅で練習しただけです。療育と言っていいのか解らないほど初歩的なレベルのことです。たったこれだけのことで、保育士や園長先生が驚く結果が出ました。
- ABAに基づく家庭療育は素人でもでき、効果がすぐ現れる。
- 素人でもできことが、子供のケアをする知識を持つはずの保育士にはできない。
- 保育士にはABAの知識や、発達障害児に対するノウハウがない。
こうしたことがよく解った経験です。そして診断を受けていない「発達障害かどうか解らない子供」にもABAは効果がある、と解りました。
発達に遅れがあるかも。
子供に対してそんな不安がある方は、一度、このABAに基づく家庭でできる療育というものを試してみるといいと思います。
もちろん、これだけで全てが解決するとは思いません。親が気付いた遅れに、病気や知的な遅れ、内臓機能の疾患などが関係していることもあります。こうしたことは、専門家の診断を受けなければ解りませんし、適切な治療や対処法は専門医でなければ行えません。
それに、療育も、専門家による指導を受けられるなら、当然、受けた方がいいに決まっています。
ただ、何もせずに悶々とただ時を過ごすのであれば、ダメ元でABAに基づく家庭療育を試してみてください。
- こうすれば、これがこの子に伝わるんだ。
- こんな風に工夫すれば、この子は理解できるんだ。
- ここはどうしても理解できないらしい。
こうした、子供の特製を親自身が掴めるようにもなってきます。
なにか、親にできることはないか。それを模索している人は、一度、手に取って内容を見てみてください。ひとつくらいは得るものがあると思いますよ。
家庭で無理なく楽しくできる生活・学習課題46 (ヒューマンケアブックス)
出版社: 学研プラス (2008/9/30)
言語: 日本語
ISBN-10: 4054036899
ISBN-13: 978-4054036895
発売日: 2008/9/30
家庭で無理なく楽しくできるコミュニケーション課題30 (ヒューマンケアブックス)
出版社: 学研プラス (2010/4/27)
言語: 日本語
ISBN-10: 4054042422
ISBN-13: 978-4054042421
発売日: 2010/4/27
イラストでわかる ABA実践マニュアル: 発達障害の子のやる気を引き出す行動療法
出版社: 合同出版 (2015/10/15)
言語: 日本語
ISBN-10: 4772612351
ISBN-13: 978-4772612357
発売日: 2015/10/15